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2024/05/19 04:00 |
残夢3
弓凛のシリーズ三話目です。


彼等の願いは本物かわからない。なぜならすぐに叶えられるものばかりだからだ。
アサシンの佐々木小次郎はセイバーや桜、凛など綺麗どころを集めて、月見酒と洒落こんだ。ランサーはアーチャーと真剣に戦うことを願った。凛が見守る中、ランサーもアサシンも満足して消えていった。
この世界が存在できる期間が短い。だから、少しでも彼等の願いを叶えられるものばかりなのかもしれない。すべてが嘘ではないだろうが、どこまで本当かわからない。それでも凛にできることは彼等の日々を覚えておくことだ。
「ねえ、皆は何か叶えたい願いとかないの?」
衛宮家の居間でメンバーがそろっていたので凛は質問を投げかけた。皆と言うのは士郎とセイバー、桜、ライダーだ。桜は戻ってから叶えられるものだったらいいなと思う。
「突然なんだよ、遠坂」
「何でもいいから。これが願ったら満足するという願いはないの?」
怪訝な表情の彼らに構わず再度、尋ねると四人は顔を見合せた。
「私としては桜が幸せに暮らしていれば満足です」
「ありがとう、ライダー」
桜とライダーがにっこりと微笑みあう。美しい主従愛である。
「じゃあ、桜は何かないの?」
「私は……今みたいに平和に過ごしているのがいいです。争いで皆で仲良くして」
「俺も賛成だ。おいしいご飯を食べて、笑っていられたらいい」
「楽しく笑顔で過ごせることはとても大事ですね」
「私も同意します」
桜も士郎もセイバーもライダーも笑って頷きあう。確かにそんな風に過ごすことができれば嬉しい。だけど、それはどうやって満足させることができるのか。
「姉さんは今をどう思いますか?」
「えっ? 私?」
「はい」
逆に桜から問い掛けられ、考え込む。聖杯の解体のための世界で皆が満足するようにできているせいか、とても平和だ。いないはずの人たちがいて、皆が笑っていられる。
「そうね。こんな世界がずっとあったらいいわね」
微笑んで答える。皆と一緒にいて、誰も死んでない、現実ではないとわかっていても願いたくなる。
「だったら、いいんじゃないか?」
「えっ?」
「俺達はこんな風に過ごすことができたから満足なんだ、遠坂」
士郎が笑う。セイバーが頷き、ライダーが微笑む。
「姉さん。皆でここが平和だとずっとこんな風に過ごしていたいと思えることが大切なんですよ」
桜がそっと凛の手を掴んで優しく笑う。
「ええ、そうね」
凛も笑顔で頷く。四人は頷き返して――消えた。
「桜……士郎……セイバー……ライダー……」
忘れない。皆がどんな風に過ごしていたか。平和に対する願いを。凛だけがすべてを覚えていることができる。
「……凛」
名前を呼ばれて顔をあげると、いつのまに現れたのか、アーチャーがいた。仏頂面で眉間にシワを寄せている。
「私は大丈夫よ」
凛を心配している顔だと気付いて、笑みを浮かべる。だが、アーチャーは眉間にシワを寄せたまま膝をつくと、凛の体を抱きしめた。
「あ……アーチャー?」
「そんな顔をしなくてもいい。わかっていても目の前で消えられるのは辛いだろう。私の前で無理をする必要はない」
優しく言われ、凛はアーチャーの広い背中に手を回した。たとえ、笑って満足していても消える姿を見るのはつらい。現実に戻っても会えるのは桜だけだ。
「凛!」
突然のアーチャーの慌てたような声に何事かと顔を上げて、驚愕に目を見開いた。平和に過ごしていた衛宮邸の壁や天井が上から少しずつ黒に染まっていく。じわりと形を失い、闇の中へ消えていくようだった。この黒には覚えがある。聖杯の中にある厄介な泥だ。
「なんで……」
「どうする、凛」
アーチャーに問われ、凛はするどく外の方に目を向けた。庭や塀だけでなく、空までもが黒く染まっていた。この世界が泥に浸食されているように見える。
「イリヤに話を聞かなきゃいけないわ」
居間を飛び出していく。世界の核となるイリヤならば少しでも事態がわかるかもしれない。
「そんなことしなくてもオレが説明してあげるヨ」
ふいに聞こえてきた声に目を向けると、自分達がさきほどまでいた居間から全身に紋様をいれた見知らぬ青年がいた。どこかの民族衣装なのか布を腰に巻いただけの軽装だ。
「誰だ、貴様」
アーチャーが凛を背にかばい、両手に夫婦剣を投影した。
「ムズカしい質問だね。オレはここにいるけど、本物のようで、偽物だったりする。オレ自身は衛宮士郎であり、アンリマユであり、この世界とも言えるんだよね~」
「ふざけるのはやめろ」
アーチャーが剣を青年に向けると怖いなと言いながら笑っている。
「貴様……!」
「待って、アーチャー」
ふざけた態度に怒るアーチャーを止めて、凛が一歩前に出た。
「凛!」
「大丈夫よ。話をするだけ」
アーチャーは不本意そうに口をつぐみ、青年に対して警戒だけを続けた。
「さて、あんたはさっきアンリマユって言ったわね」
「言いましたネ」
青年が肯定する。
「あんたがこの聖杯の原因とも言えるとだけわかれば、なんでもいいわ。簡単にこの状況を説明しなさい」
「ん~、簡単にか~」
「時間がないの」
こうして話している間にも泥の侵食が少しずつ広がっていく。このままどうなるかわからないまま、ゆっくりしてられない。
「一言ですませるなら、アンタ達は悪くないけど、タイミングが悪かった」
「はっ?」
「一人ずつ消えていればまだ良かったんだけどね。同時に四人も消えちゃって、しかも、あちらでも同じことが起きちゃって、追いつかないよ~」
明らかに言葉が足りてない内容を考える。あちらというのは教授がいるはずの四次聖杯戦争の人たちがいる世界の方。少しずつマナに変えて浄化していく予定なのに同時に消えすぎて処理が追いつかなくなったのだろう。
「どうすれば、予定どおりにマナに変えられるの?」
「魔術のことはよくわからないけど、解体するための魔術の容量を大きくすればいいんじゃないかな」
「そう、わかったわ」
凛はさっと身を翻し、玄関へと向かった。アーチャーもあとを追いかけていく。
「頑張ってね。イリヤが世界が崩れないように支えているけど、もうすぐこの世界は消えてなくなるから」
「そういうことはもっと早く言いなさい、バカ!」
後ろからのんびりとした声をかけられ、凛は怒鳴り返すとアーチャーの腕を掴んだ。
「私を抱えて柳洞寺に行って。大至急よ」
「了解した」
凛の体を抱き抱え、アーチャーは地面を蹴って、跳躍した。平和だった偽物の世界を眼下に柳洞寺へと向かう。もうすぐすべてが消える。

大聖杯がある柳洞寺の地下洞へと行くと聖杯の解体のための魔法陣があり、泥が天井から侵食してきていた。アーチャーの腕から降りて、魔法陣の前に立つ。
「ミス遠坂」
呼ばれて振り向くと、見知らぬ少年が大柄な男ととも馬でのりつけてきた。誰なのか推測できるが、まさかと思う。
「……教授?」
「私の姿のことは何もいうな。それにお互い様だろう」
少年らしかぬ憮然とした表情で言う。確かに凛も十年前の姿をしている。だから、教授が二十年前の姿をして当然だ。たとえ今とはかけ離れた姿をしていたとしても。
「ライダーはまわりに警戒してくれ。何が起きるかわからないからな」
「おう、まかせろ」
ライダーと呼ばれた大男が頷くと教授も馬を降りて、魔法陣の前に立つ。
「アーチャーもよ。何が起きてもおかしくないわ」
「ああ、了解した、凛」
かなり大きな洞窟の中、アーチャーとライダーはあたりにするどい目を向けた。マスターを守り通す最後の仕事だ。
「教授、魔法陣の容量を大きくするということは……」
「ならば、ここを……」
二人で相談して、素早く作業に取り掛かる。時間がないから手早く正確に行わなければいけない。すべてを無事に終わらせるために。集中して――まわりで何が起きているのかわからないくらいに。
「セット!」
砕いた宝石を散らばせると魔法陣が白く輝き始めた。光が溢れていく。
「よし、これでいけるはずだ」
「よかった」
二人して安堵の息をついて、あたりを見渡して、愕然とした。凛と教授がいるところをのぞいてすべてを泥が覆っていた。
「アーチャー!」
「ライダー!」
それぞれのサーヴァントを呼ぶ。
「凛……」
すぐ近くに泥の中に腰まで浸かったアーチャーが剣を手にしたまま、振り返る。
「アーチャー!!」
「凛、来るな!」
アーチャーのするどい叱責に足が止まる。本物である凛が泥の中に入るのは危険だ。近づくこともできずに、唇を噛みしめる。
「凛は無事か」
「……ええ」
こんな時にでも凛の身を案じ、口元を緩ませてほっとした表情をするのはずるい。
魔法陣の光が溢れて、泥の黒の浄化していく。少なくとも洞窟の中が元に戻ったのを確認して、凛はアーチャーの元へ駆け寄った。
「アーチャー!」
「私は大丈夫だ」
しがみついて無事を確認する。頭をなでられ泣きそうになる。
「だが、残念ながらここで終わりのようだ」
「えっ?」
顔をあげると、アーチャーの体が少しずつ消えていくのが見えた。願いを叶えてないけど、世界が終るからゆっくりと消えていくのだ。
「アーチャー! あなたの願いを叶えてない!」
「願いは叶ってるさ」
「えっ?」
「君が無事でいる」
凛の目に溢れる涙を消えそうな指で拭う。もうすぐ触れることもできなくなるのが未練なんて言えない。
「でも、アーチャー……」
「どうか、元気でな、凛」
「アーチャー!!」
最後に微笑んだ顔は十年前の朝と同じで――消えた。
「アーチャー!!」
凛の叫びは届かない。
光が世界を包む。すべてを浄化して、消し去っていく。
偽りの世界だが何よりも愛おしい世界が消えていく。

「アーチャー!!!!」

 

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2013/06/25 00:15 | Comments(0) | 弓凛

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