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2024/05/19 05:14 |
奪われた騎士

前に募集したリクエストにより、セイバーとイリヤ。少し無理矢理系で百合っぽい。



聖杯戦争の初日からマスターがやられた。何も知らないマスターである士郎のために教会で説明を受けて、改めて主従となったセイバーと士郎と世話を焼いてくれた凛とともに歩いた帰り道。バーサーカーに襲われた。セイバーにはバーサーカーのマスターの姿に覚えがあった。アインツベルンの城で遠くから見たことのある幼い娘。
「イリヤスフィール・フォン・アインツベルン」
少女の名乗りにやはりと思う。第四次聖杯戦争の時にともに行動したアイリと良く似ている。ホムンクルスだからなのかはわからないが。
状況は最悪だった。バーサーカー相手に苦戦するセイバーを助けようとした士郎が逆にやられてしまった。凛が助けようとしても分が悪く、イリヤが倒れた士郎の腕を掴んだ。
「これでようやく……」
うっとりしてイリヤは士郎の腕を千切り、令呪を自分の腕に移した。
流れてくる魔力。不完全な契約だった士郎とはまったく違った。
「セイバー、あなたは私のものよ」
二人の英霊とパスを繋げたイリヤは無邪気に微笑みを浮かべた。

「セイバー、街を歩きましょう」
イリヤは嬉しそうにそう言って新都の方に向かって歩きだした。
片腕を失くした士郎と無事ではあるがサーヴァントがいない凛に目もくれず、バーサーカーを霊体化させて、セイバーだけを連れていった。
「イリヤスフィール、あなたはどういうつもりですか。あなたにはバーサーカーがいる。私と契約する意味がない」
「あら、そんなことないわよ。だって、バーサーカーとセイバーの二人がいたら私は無敵じゃない。誰も私に勝つことなんてできないわ」
「英霊二人と契約したところで、自滅するのがオチでしょう」
「私を見くびってもらっては困るわ、セイバー。そこらへんの魔術師と一緒にしないでね」
イリヤが振り返ってにこりと笑う。彼女の言うとおり、今のところ問題なく魔力は送られている。さきほどの戦闘で負った怪我もほぼ治りかけている。
士郎からイリヤにマスターは変わってしまったが、信用できない状況だ。だが、今は大人しくして士郎や凛のことを探すのがいいかもしれない。
「それでイリヤスフィール。私たちはどこへ向かっているのですか?」
セイバーが尋ねると、イリヤは目を輝かせて新都の賑やかな大通りの方を指差した。最近は物騒な事件が多いせいでまっすぐ帰る人が多いという話だが、一番大きな通りまで来ると少しは賑わっている。
「まずは散歩しましょう」
「何を言ってるんですか、イリヤスフィール」
「そのままの意味よ。あ、でも……その姿じゃ目立つわね」
イリヤは少し考え込むとまわりを見渡して、一人歩いているサラリーマンの男に目をつけた。
「鎧を脱ぐ訳にもいかないし男物の大きいコートあたりで隠すのが良いかしら? あの人の服を奪って」
「何を言ってるんですか! それに私に動きの妨げになるコートなど不要ですし大嫌いです」
「だって、その格好のままじゃダメでしょ。まだ人はいるしね。あの人の服を着てごまかしましょう。別に命を奪って来いって言ってるわけじゃないのよ」
「あなたは!」
さらに言い募ろうとしたセイバーの前にイリヤは腕を見せた。正式には腕にある令呪を。
「まさか……」
「令呪に告げる! 聖杯の制約に従い、この者サーヴァントに命じる! あの男から衣服をはぎ取れ!」
イリヤが掲げた腕から一画の令呪が消え、セイバーの体の動きがぎこちなくなる。どれだけ命令に従いたくなくても逆らうことはできない。
「申し訳ありません!」
「えっ?」
通りすがりの不運なサラリーマンが振り返ろうとする前にブラックアウトした。彼が目覚めた時には下着の身の格好で警官に保護されているところだった。怪我はほとんどなく、財布も取られてないので服を欲しがっていた輩の仕業だと謎の事件に埋もれていった。

セイバーは鎧の上から剥ぎとったトレンチコートを羽織り、不機嫌そうに歩いていた。令呪を使われて男から服を奪っただけでも嫌だったのに、今の格好がひどくて余計に不機嫌さが増した。
下の鎧が見えないようにコートのボタンをきちんと留め、襟を立ててソフト帽を目深に被って目立たないようにしているが、余計に不審者にしか見えないことを彼女達は気付いていない。両手をポケットに突っ込んでイラついているのを隠そうとしていない。
それだけでも目立つのにその横にはさらに不審者に見えるイリヤもいるからまわりの視線を集めている。変装が必要なのはセイバーだけなのだが、イリヤも真似をして男から剥ぎとったジャケットを着ていた。セイバーの方をチラチラ見ながら同じようにポケットに両手を突っ込んで眉間にシワをよせて歩いていた。真似して散歩しているのが嬉しいのか時々、笑顔になる。
「あ、セイバー、あそこに行くわよ」
「……」
セイバーは返事もしないがイリヤは気にせず店の方に走っていった。そこは大きなショッピングモールでいろんな店がより合わさった場所だ。
「どこがいいかな~」
不審な目で見られていても気にせずにイリヤは一つ一つの店をのぞいていった。何をしていてもイリヤは楽しそうでセイバーはずっと不機嫌な顔をしていた。
「あ、おいしそう」
イリヤが目を輝かせたのは色とりどりに店先に並んだお菓子の山だった。店に駆けていく。
「セイバー、早く!」
手招きして呼ぶのを苦々しく思いながらもついていく。
「どれにしようかな……セイバーはどれがいい?」
「……別にどれでも構いません」
「もう、つまんない」
頬を膨らませて拗ねたと思うと顔を輝かせて、目に付いたお菓子を手にとった。大きな袋に入ったそれは色とりどりのキャンディー。
「これを買うわ」
レジに向かい不審そうな店員に日本のお金を手渡して無事に買い物を済ませ、セイバーを連れて店をでた。
「これおいしいわ」
買ったキャンディーを色ごとに別々のポケットに入れ、次々に口の中に放り込んでいく。たくさんのポケットがあるのがイリヤのお気に入りだ。
「ほら、セイバーも」
いくつものキャンディーをセイバーのポケットの中に入れようとする。だが、セイバーは両手をポケットに突っ込んだままなので、イリヤは動こうとしない手を無理矢理に出して、キャンディーを入れていく。
「セイバーのコートにも内ポケットがあるでしょ」
イリヤは背伸びをして無理矢理手を伸ばすと、内ポケットにもキャンディーを入れようとする。セイバーは不機嫌なまま。イリヤの方が背が低いのできちんと首元までしめているコートの内ポケットにいれようとするとボタンが圧迫して少し苦しい。だが、このままイリヤがやりやすいようにとしゃがみ込むのも、ボタンをあけるのも癪だ。
「内ポケットがそんなに珍しいですか?ポケットなんか両手を突っ込める以外邪魔なだけです…」
ぽそと呟くがイリヤは聞こえてないのか反応はない。やがて、イリヤはあちこちのポケットに入ったのを満足して、キャンディーの包装紙を取ると、そのままセイバーの口へ運ぼうとする。
「サーヴァントである私にそういうものは必要ありません」
「でも、おいしいよ」
「ご自分で食べてください」
セイバーが拒否しても拗ねた表情で口にキャンディーを押し込もうとするので、セイバーはため息をついてそれを口に入れた。それに満足したのかイリヤは嬉しそうに笑って歩きだす。
「ジャケットの右のポケットにはメロン♪ 左のポケットにはイチゴ♪ 胸のポケットにはオレンジで大好きなブドウは内ポケットに隠しちゃう♪」
歌いながらポケットに入ったキャンディーを舐めていく。
「うん、すごくおいしい!」
「……」
ガリッと音を立てて、噛み砕く。おかげで消費も激しくたくさんあったキャンディーの数が減っていっていた。
「うっとうしいな~」
こんな時間に変な姿をしたイリヤとセイバーに注目が集まり、まわりでひそひそと話しているのが聞こえてくるのが鬱陶しかった。せっかくの楽しい時間だと言うのに。これ以上はここにいることは面倒なことになりそうだと思い、大通りから逸れていく。
「昼間ならゆっくりできるかな」
残念そうにしながらも人のいない道を歩き、打ち捨てられていたマンションに辿りついた。ここがどこかわからず適当に歩いた結果、着いた場所だった。
「イリヤスフィール、どこへ行くのですか」
「うーん、屋上かな」
ただの思いつきで屋上へとでる。中途半端な位置にある古いマンションのまわりに人の姿はなく、屋上からは眼下に灯りがまわりを照らしていた。
アインツベルンの城とは何もかもが違う。こんなに明るい夜も、賑やかな人の声も向こうにはない。
「もうこれはいいですね」
セイバーはトレンチコートの肩部分を掴むと力任せに一気に勢いよく脱ぎ捨てた。帽子も乱暴に放り捨てて、頭を振って清々したように顔をまっすぐにイリヤに向ける。風に飛ばされるコートと帽子に見向きもしない。
「セイバーたら人のコートなのにひどーい!」
「他人のコートがどうなろうが知ったことではありません。だから脱ぎ捨てたのです
「本当に気にいらなかったみたいね」
「令呪を使ってまで……何がしたいんですか」
睨みつけながら問うと、イリヤはその場でくるりとまわって楽しそうに笑った。ポケットの中のキャンディーを口の中に放り込んで、噛み砕く。
「この町の中をセイバーとお母様が歩いたのかって思ったら一緒に歩きたくなったの」
「……イリヤスフィール」
「お母様がどうなるかは知っていたわ。だから、帰ってこないこともわかってたし、この町で最期を迎えるだろうと思ってた」
雪の城ではなく、見知らぬ土地に出掛けたまま帰ってこなかった母。裏切って聖杯を手にしなかったった父は冬木で養子を迎えて帰ってくることもなく、死んでしまった。
「最強と呼ばれるセイバーを召喚して、キリツグを迎え入れて万全だったのにね」
「……私だと知っていたのですか」
「もちろんよ。だって、十年前にお母様と一緒にいたでしょ。あなたはここではなく、アインツベルンで召喚された」
直接に会うことはなかったが、城の中の出来事は幼いイリヤにもなにが起きているかわかっていた。
「遠くから見ただけだったけどすぐにわかったわ。あなたがセイバーだって。他とはオーラというやつが違ったもの」
城にいるのはほとんどがホムンクルスだったけど、セイバーだけは強烈な存在感を示していた。
「だからね」
イリヤはジャケットのポケットに両手を突っ込んでジャケットの前を広げて内ポケットの中まで探って何もないことを確かめると用済みとばかりに一気に脱ぎ捨てる。あれだけ楽しんでいたジャケットも必要ないのか空高くに放り捨てられた。イリヤがセイバーの方へとゆっくりと近づいてくる。
「……イリヤスフィール……ジャケットが……」
「セイバーだってコート脱ぎ捨てたくせに」
イタズラぽくクスクスと笑う。
なぜだかセイバーは動けなくてイリヤにトンと押されるがままに尻餅をついた。イリヤがにっこり微笑んでセイバーの膝の上に座りこむ。
「ちゃんとあなたと会って話をしてみたかったの。一目見た時から気にいってたのよ。シロウがあなたを召喚してくれて嬉しかったわ」
セイバーの頬を両手で挟み込み、じっと見つめる。
「キリツグが養子を迎えたシロウよりもあなたを手にしたいと思ったの。ねえ、私のサーヴァントになって。聖杯であなたの願いを叶えてあげるわ」
無理矢理に士郎からセイバーを奪いながらイリヤはその心も欲しいと願っていた。母親のアイリの横にいたカッコイイ姿に憧れたから。
「……私はシロウに剣を捧げた……」
「ふうん。そんなことを言っちゃうんだ」
「イリヤスフィール!」
無邪気な笑顔なのに背筋が寒くなるものを感じて、名前を叫ぶ。何をするかわからない。
「まあいいわ。すぐにあなたのすべてが手に入るとは思ってないもの。でも、逃げられないわ。だってあなたのマスターは私なんだから」
イリヤは動けないセイバーの額にそっと口づけた。
「聖杯戦争が終わるまでにはあなたのすべてを手に入れるから、覚悟していてね」
「イリヤスフィール……」
「セイバー、ずっと会いたかったわ」
首筋に両腕を回して抱きついてくるイリヤの体温を感じながらセイバーは逃れられないという予感がしていた。
誰もいないマンションの屋上で密やかに聖杯戦争の決定的な出来事が起きていたことを知るものはいない。捨てられたコート達が風に煽られて夜の街へと飛ばされていった。

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2013/12/09 00:27 | Comments(0) | 未選択

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