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2024/05/19 04:42 |
月見酒
ホロウ夜間の小話。槍弓です。もとネタが行方不明。




召喚されたこの時代は野宿するにも便利になった。快適な寝心地のテントや簡単に料理ができる道具。ランサーにとってどれも面白いものだ。だけど、それらを使わずとも野宿はできる。
沈んでいく太陽を眺めながら酒の入ったコップを傾けた。
「ランサー」
近づいてきた足音と呼びかける声に頭を上げると、仏頂面をしたアーチャーがいた。
「よう」
「一体何の用だ」
今日の昼に港で会った時、ここに来るように了承を得ず一方的に言ったのを律儀に聞いてやってきたのは真面目だなと思う。
「ん」
ランサーが掲げた日本酒の瓶にアーチャーは眉をしかめた。
「バイト先でもらったものか?」
「いや、虎の姉ちゃんが魚の礼ってことでもらった。家にたくさんあるらしいぜ」
「……まあ、藤村組にはあるのだろうな」
遠い目をして思い出しているのは生前の記憶か、今の記憶か。
「月見酒しようぜ。たまには誰かと飲むのもいいだろう」
ランサーが用意していたもう一つのグラスを差し出すとアーチャーはため息をついて隣に座った。
「ツマミはないのか?」
「月を見ながらの酒にそんなの必要ねえよ」
「……そうか」
グラスをカチンとあわせて、酒を飲む。
「月が綺麗だ。こういうのは昔と変わんねえな」
「そうか」
「酒も俺の知っているものと違うけど美味いし、面白いもので溢れているし、こんな生活をするなんて思わなかったな」
「ああ、そうだろうな……ランサーは昔と今とどちらかがいいと思ったことがあるか?」
まっすぐに月を見上げたままのアーチャーの顔は無表情というよりも感情をどう表わせばいいかわからない迷子のように見えた。
「どっちもいいに決まってるだろ」
「……どっちも?」
「昔は昔でいい所もあるし、悪いところもある。今は今でいい所と悪いところがある。思い出も何もかもな。どちらかだけを選ぶことができねえよ。お前は頭が固いな」
乱暴に頭をかき混ぜると、アーチャーに手を払いのけられた。
「やめろ」
「ちょっとくらいはいいじゃねえかよ」
拗ねたように言ってもアーチャーは冷たい目で見てくるだけだ。現代生まれの癖に一番現代に慣れてないようなアーチャーに寂しいと感じる。戦うときはきちんとやりあうが、楽しい時は思いっきり楽しめばいいのに。
「なあ、アーチャー。今度プール行かないか?」
「はあっ?」
「面白いと思うぜ。これは決定だからな」
「……貴様は人の了承も得ずに話を決めて……」
文句を言うが、明日にでも一緒に行ってくれるだろう。こういう優しさが好きだったりする。
「本当に面白い時代だよな」
こんな風に出会うことのないはずの自分達がこうして酒を飲んでいることが、面白い。
ランサーはグラスに月を掲げて、乾杯と呟いた。

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2013/10/18 00:01 | Comments(0) | 槍弓

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