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2024/05/19 05:14 |
チョコをあなたに
バレンタインで弓凛。
UBW後です。

イギリスへ留学するための準備で忙しかった。だから、仕方のないことなのだ。
「……バレンタイン」
凛は目の前のチョコを見て、ため息をついた。
まさにイギリスへと出発する空港の中、少し余裕があったから店を見て回っていたらチョコが飾られ、バレンタインの文字が大きくディスプレイされていた。
たぶん、街の中ではかなり賑わっていたのに忙しさでまったく気づいてなかった。あるいは学校に行っていれば誰かの話を聞いたかもしれないが、卒業式を迎えた後ではそれもない。結果、遠坂凛はバレンタインの前日にようやく気付くこととなった。
今から買ったとしても、これから飛行機に何時間も乗るわけで、しかも渡す相手は霊体化している。
「どうしよう……」
イギリスに着くのは夜だ。そこから新しい家となる場所まで行くことを考えれば、買うチャンスは少ない。
「おーい、遠坂。そろそろ行かないといけないんじゃないか」
チョコを手に取ろうとしたところで声をかけられる。振り返ると士郎とセイバーが手を振っている。時計を確認すると確かにそろそろ行かなければいけない時間だった。
「ああ、もうっ!」
常に優雅たれの家訓も忘れて、凛は呻くと適当に掴んだチョコをさっさと会計を済ませた。

イギリスまでの長い時間、ずっと雲の上だ。時間を潰す方法はいくらでもあるし、寝ていれば問題ない。だけど、凛はぼんやりと窓の向こうの雲を見つめていた。隣でセイバーと士郎がぐっすりと寝ている。
(ねえ、アーチャー)
(どうかしたかね、凛。寝ないとあとが辛いぞ)
レイラインで呼びかけるとすぐに声だけが返ってくる。
(まさかこんな人数で時計塔に行くとは思わなかったなって)
(ふ、そうだな。私もこうして共にイギリスへ行くとは思わなかった)
苦笑する姿が簡単に思い浮かぶ。あの聖杯戦争の朝の中、無理矢理に再契約をしてアーチャーを残らせた。バレンタインと同時に激動の聖杯戦争を思い出す。
(アーチャー……)
(なんだ?)
(そばにいてよね)
穏やかに笑いながら言うと、返事がなく、沈黙が広がった。
(ちょっと、アーチャー?)
不機嫌になりながらも凛が問いかけると、小さく息をついたような気配がした。
(すまない。驚いてしまってね。まさか君がそんなことをいうとは思わなくて)
(なによ。それで? 返事は?)
(もちろん、私は君の従者だ。そばにいるよ)
アーチャーの返事に凛は満足気に頷いた。サーヴァントであるアーチャーがどこまでそばにいれるかはこれからの凛次第。でも、アーチャーの意志もそこにあると確認したかった。これはただの心の贅肉だ。
(寝るわ。おやすみ、アーチャー)
(おやすみ、凛)
毛布を掛けて、眼を閉じると簡単に睡魔が訪れた。
「君が望むなら、私はずっとそばにいよう」
レイラインじゃなく、本当の肉声。
頭を撫でられる感触に安堵しながら、口元に笑みを浮かべて凛は眠りにおちいった。

イギリスの新しい家は三人で、あるいは四人で暮らすために少し広い。これから何かと忙しくなるが、到着した当日はさっさと寝ることにした。ここできちんと寝ておかないと時差ボケに苦しみそうだ。
「あ、そうだ。アーチャー」
「なんだ?」
今度は実体化しているアーチャーに向かって空港で買ったチョコを投げ渡した。日付はあと一時間ほどで変わってしまうところだ。
「慌てて買ったものだから、きちんと選んだわけじゃないけど、これからもよろしくの意味をこめてのチョコよ
しかも免税店だから安かったはずだ。それは言わないでおく。
「なに?」
アーチャーが顔をしかめたままであることに気付いて、凛は睨みつけた。受け取れないとか言い出すつもりなのかと勘繰る。
「……バレンタインか?」
「そうよ」
アーチャーは壁に取り付けた時計を見て、ため息をついた。呆れたような表情に凛の怒りが増す。
「なによ! いらないなら正直に言いなさいよ!」
「待て、凛。君は思い違いをしているようだ」
「なによ!」
「今日は十三日だぞ」
アーチャーが言った内容に凛はきょとんとして、時計を見る。ごく普通のアナログ時計には日付などない。
「……え、何を言ってるの?」
「それとも日本式に合わせて、日本の時間かね? 向こうは今頃十四日の朝のはずだからな」
「……イギリスは十三日?」
「ああ、移動時間と時差を考えたかね? どっかで日付が混乱したのではないか?」
凛はしばらく考え込んで、アーチャーの言う通りだと気づいて、力なくベッドに倒れこんだ。
「……なにそれ」
「まあ、これはありがたく受け取っておくよ、凛」
箱を手に部屋を出ていこうとするアーチャーを慌てて、止める。
「どうかしたかね?」
「それ返しなさい」
「たった今、君から受け取ったものばかりだが?」
「いいから返しなさい! 時間があるかならちゃんとしたやつを……」
慌てる凛の頭をなでて、アーチャーは穏やかに微笑んだ。
「君が私に渡そうと時間がなくても買ってくれたものだ。返すことなどできない」
「……アーチャー」
「君は日本式でくれるなら、明日は私がイギリス式で用意しなければな」
「……なにそれ」
「バレンタインは恋人達の愛の日だろう」
凛は顔を赤くして俯いた。チョコレートや女性からというのは日本だけが騒いでいるものだ。他は恋人達が愛を確認し合うために何かをプレゼントする日だ。
「では、今日のところはおやすみ、凛」
頭をもう一度撫でて、アーチャーはひらりと手を振って出て行った。
「……アーチャーのバカ」
顔を赤くしたまま、座り込む。だけど、明日が楽しみで口元が緩みそうだ。
きっとイギリス式で名前のないカードとともにプレゼントが置かれているのだろう。
朝が来るのが楽しみと思うなんて。朝、きちんと起きるために凛はパジャマに着替えて早めにベッドへと潜り込んだ。

翌朝には赤いバラとメッセージカードが置かれていた。

「君の望むまま、ずっとそばに」

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2013/02/15 01:07 | Comments(0) | 弓凛

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